樫原の棚田を訪ねる前に知っておきたいこと
徳島県上勝町にある樫原(かしはら)の棚田を訪ねるなら、棚田がどのような農地なのかを知っておくと、景色の見方が広がります。
形や色を眺めながら、食べ物を育てる仕事にも思いを向けてみましょう。
上勝町の山あいに広がる樫原の棚田の概要
樫原の棚田は、徳島県勝浦郡上勝町大字生実(いくみ)字白鶴にあり、勝浦川の支流である樫原谷川の上流に位置しています。
田んぼは標高500〜700mの急な斜面に開かれ、下樫原・中樫原・上樫原の3つの集落とともに一つの農村景観をつくっています。
樫原の棚田の勾配は約3.5分の1とされ、これは水平に約3.5m進むと約1m高くなるほどの急な傾きです。
棚田の面積は5.1haで、田と田の間の斜面である法面(のりめん)は、石積みと土羽(土を盛って固めた斜面)を組み合わせたつくりです。
200年以上ほとんど変わらない土地利用と重要文化的景観
樫原には、文化10年(1813年)の紀年銘がある「勝浦郡樫原村分間絵図」という貴重な絵図があります。
この絵図に描かれた水田・家屋・道などと現在を比べると、200年以上も土地利用の形がほとんど変わっていないことが分かるまれな事例とされています。
樫原の棚田は、1999年(平成11年)に農林水産省の「日本の棚田百選」に選ばれました。
2010年(平成22年)2月22日には、棚田と集落を合わせた景観が「樫原の棚田」の名称で、徳島県で初めて国の重要文化的景観に選定されています。
さらに、2015年には環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山(重要里地里山)」に、2022年には農林水産省の「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」に選ばれました。
棚田とは斜面を生かしてつくられた田んぼ
山などの傾斜地に階段状につくられた田んぼを、棚田と呼びます。
平らな田の面と段差のある縁を見比べると、斜面を耕作に使う工夫が見えてきます。
日本語の「田んぼ」は稲などを育てる水田を指し、田の周囲を区切る土の部分は「あぜ」と呼ばれます。
樫原の棚田では、土でできたあぜに加えて、石を積んでつくられたあぜも見られます。
言葉の意味を知ってから眺めると、風景の中の線や面を、農業の仕組みと結びつけて理解できます。
風景を支える人の仕事にも目を向ける
棚田の景観は、耕作や草刈り、水の管理など、人の手が加わることで保たれています。
樫原でも高齢化や後継者不足が進むなか、地域住民の協働による景観保全の取り組みが続けられてきました。
NPO法人郷(さと)の元気が創設した「棚田オーナー制度」では、地区外の人が年間を通して農作業を体験でき、小学生による米作りや石積みの体験も行われています。
見学では、作物の色だけでなく、田の区切りや周囲の手入れにも注目してみましょう。
農作業を見かけたときは、そこで働く人の時間を尊重することが大切です。
旅先で食べるご飯と、そのもとになる米を育てる場所を結びつけると、棚田を見る体験にも奥行きが生まれます。

樫原の棚田の形と変化を楽しむ見方
棚田を見る楽しみは、田の輪郭と作物の状態を、少し視点を変えながら観察することにあります。
樫原の棚田を訪ねる際も、特定の写真と同じ景色を求めすぎず、当日に見えるものを丁寧に眺めてみましょう。
下樫原・中樫原・上樫原で異なる棚田の表情
樫原の棚田は、下樫原・中樫原・上樫原という高さの異なる3つの区域に分かれています。
写真撮影で最も人気があるのは、山々に囲まれた下樫原です。
下樫原には、曲線を描くあぜを持つ1枚約190平方メートルの小さな水田がいくつも連なっています。
中樫原では土でつくられた田の壁が多く、上樫原と下樫原では石垣が使われています。
区域ごとに田の大きさや壁のつくりが異なるため、見学できる場所から見比べると、同じ棚田でも印象の違いを感じられます。
あぜの曲線をたどって段の重なりを見る
まずは細部を探す前に、見学できる場所から田の区切りを目でたどると、段の重なりを捉えやすくなります。
横に続く線と、上下に重なる田の面を分けて見るのが観察のコツです。
樫原の棚田のあぜは曲線を描き、山の等高線があぜの形に映し出されています。
「あぜの曲線」「あぜの段」「田畑の小さな面積」は、樫原の棚田の美しさを形づくる重要な要素です。
曲がった縁や幅の違いが見えたら、土地の形との関係を考えてみるのもよいでしょう。
見えている範囲だけでも、視線を手前から奥へ移すことで、写真とは違う立体感を味わえます。
季節ごとの見え方は田んぼの状態で変わる
一般に、水田の見え方は、水の有無や稲の生育、刈り取りなどによって変化します。
水があるときは田の面、葉が育っているときは色や密度というように、観察する対象を変えてみましょう。
同じ季節でも気象や耕作の状況によって姿は異なるため、過去の写真だけで訪問日の景色を決めつけないことが大切です。
次の表は、現地の見頃を示すものではなく、水田の状態に合わせた一般的な見方を整理したものです。
| 田の状態 | 目を向ける部分 | 観察の視点 |
|---|---|---|
| 水が張られている | 水面と田の縁 | 面と線の組合せ |
| 葉が育っている | 葉の色と密度 | 緑の濃淡 |
| 穂が見えている | 穂の色や向き | 葉との違い |
| 刈り取り後 | 田の面と刈り跡 | 作業後の変化 |
下樫原の四季の風景として、春に水を張った田に映る空、夏の終わりに吊るして天日干しにされる稲束、秋に色づくもみじ、冬に時折雪に覆われる棚田が見られます。
町内の田植えは5月中旬〜6月中旬、稲刈りは9月下旬〜10月上旬、彼岸花は9月下旬が目安とされています。
これは町全体の目安であり、樫原の棚田の作業日や当日の景色を約束するものではないため、天候や耕作の状況によって前後することを前提に計画しましょう。
広い風景と石垣・水路などの細部を見比べる
全体の景色を眺めた後は、同じ立ち位置から目に入る細かな部分へ視線を移してみましょう。
田の境界や葉の重なりなど、最初は気づかなかったものが見つかるかもしれません。
樫原では、用水路の水を竹の樋(とい)で田に引き、ひとつの田から次の田へと流していきます。
モルタルなどを使わずに石を積む空石積み(からいしづみ)の法面には、すき間に植物が茂り、カエルやヘビ、昆虫などのすみかにもなっています。
下樫原では、かつて谷沿いに多く並んでいた精米用の水車小屋が復元され、水車の音も風景の一部になっています。
写真を撮る場合は、カメラの向きや切り取り方を変えると、場所を移さずに印象の違いを楽しめます。
広く写した写真と細部を切り取った写真を見比べれば、何に心をひかれたのかも振り返りやすくなります。

樫原の棚田の見学・撮影で守りたいマナー
棚田を見学するときは、農作業と地域の暮らしを優先することを行動の基準にしましょう。
樫原の棚田は、今も耕作が続けられている農地であり、人が暮らす集落と一体になった景観です。
撮りたい景色があっても、立ち入れる範囲や周囲の安全を確認してからカメラを構えます。
田んぼやあぜへ許可なく入らない
田やあぜ、水路には、持ち主や管理者の許可なく立ち入らないようにしましょう。
細い道のように見えても、一般の旅行者が通れる場所とは限りません。
柵がないことや、ほかの人が入っていることだけを理由に進まないのが基本です。
石積みの法面に登ったり、石や竹の樋に触れて動かしたりすることも避けてください。
通行や見学に関する表示がある場合は従い、範囲が分からなければ立ち止まって確認してください。
田に入って農作業を体験したい場合は、棚田オーナー制度のように受け入れ側が用意した機会を利用しましょう。
撮影する場所は通行と作業を妨げないよう選ぶ
立ち止まる前に、車や人の動き、作業の出入口を確かめましょう。
町内の棚田を巡る道は道幅が狭いため、運転には十分注意しましょう。
撮影のために道路上へ車を止めたり、道の端に長く立ち止まったりしないようにしましょう。
画面を見ながら後ずさりしたり、構図を整えるために道いっぱいに広がったりするのは避けます。
三脚や大きな荷物も、通行の支障にならないか判断し、場所が取れなければ広げないようにします。
農具や資材が写り込んでも、撮影のために勝手に動かしてはいけません。
人物や住まいを撮る前に相手への配慮を考える
農作業中の人を主な被写体にしたい場合は、作業を妨げないタイミングで、撮影してよいか尋ねましょう。
断られた場合や意思を確認できない場合は、人物を中心にした撮影を控えます。
樫原の重要文化的景観は棚田と居住地を合わせて選定されているため、構図によっては家屋や生活の様子が写り込みます。
住居の中や庭先をのぞき込む撮り方、個人の生活が詳しく分かる写真の公開にも配慮が必要です。
写真を見返す際は、撮影時だけでなく、共有する相手や公開範囲についても考えてみてください。
あいさつと声の大きさにも気を配る
地域の人と顔を合わせたら、自然なあいさつを心がけましょう。
会話をしたいときも長く足を止めてもらわず、大声で同行者を呼び続けることは控えます。
日本語で短く意思を伝えたい場面では、次のような言葉が役立ちます。
| 場面 | 伝えたいこと | 短い日本語の例 |
|---|---|---|
| 人と顔を合わせる | あいさつ | こんにちは |
| 管理者に通行を確認 | 道に入れるか | ここは通れますか |
| 本人に撮影を相談 | 撮影してよいか | 写真を撮ってもいいですか |
| 案内してもらう | お礼 | ありがとうございます |
言葉だけで意思が伝わらない場合は翻訳機能などを使い、あいまいな反応を許可と受け取らないようにしましょう。

棚田見学に向けた服装と持ち物
屋外で風景を楽しむ準備は、歩きやすさと天候への備えを軸にすると整えやすくなります。
持ち物は自分で管理できる量にまとめ、立ち止まるときも足元に気を配れるようにしましょう。
履き慣れた靴と動きやすい服を選ぶ
歩いて見学するなら、履き慣れた歩きやすい靴を選ぶとよいでしょう。
樫原の棚田は急な斜面に広がっているため、坂道や段差のある場所を歩くことも想定しておきましょう。
足元が見えにくい丈の服や、動きを妨げる服は避け、周囲を確認しながら歩ける服装にしましょう。
子どもと一緒の場合は、写真を撮る大人とは別に、子どもの動きに目を配れるよう役割を相談しておきましょう。
天気に合わせて荷物を調整する
出発前に天気予報を確認し、日差しや雨、気温に合うものを用意してください。
樫原の棚田は標高500〜700mの山あいにあり、冬にはまれに雪が積もることもあります。
冬に車で訪れる場合は、路面の凍結や積雪も想定して計画を立てましょう。
濡れた地面では足元に注意し、悪天候のときは予定を変える余地を残しておくと安心です。
必要に応じて、次のようなものを準備しましょう。
- 飲み物と、季節に合った帽子や上着
- 雨具と、濡らしたくない物を入れる袋
- ごみを持ち帰るための袋
- 充電した携帯電話と、確認済みの移動情報
休憩で出たごみは持ち帰り、農業用の設備や資材を荷物置きとして使わないようにします。
上勝町は、ごみを生み出さない社会を目指す「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)宣言」を行った町でもあります。

樫原の棚田へのアクセスと訪問前に確かめたいこと
樫原の棚田への訪問計画は、見学できる範囲と往復の移動を確かめてから組み立てましょう。
紹介写真や地図の表示だけでは分からない条件は、自治体や観光案内などの公式情報で確認することが大切です。
見学できる範囲と現在の案内を確認する
訪問前には、通行や見学に関する案内が更新されていないかを確かめましょう。
行きたい場所が見えることと、その場所まで入れることは別に考える必要があります。
撮影に特別な機材を使いたい場合や、複数人でまとまって訪れる場合は、その条件も伝えて事前に確認してください。
上勝町の観光に関する問い合わせ先は、上勝町役場産業課(電話:0885-46-0111)です。
日本語の表示が読めないときは、そのまま通り過ぎず、翻訳などで意味を確かめると判断しやすくなります。
観光庁の多言語解説文データベースには樫原の棚田の英語解説文も掲載されているため、事前に読んでおくと現地で景観を理解しやすくなります。
移動手段は帰りまで含めて決める
樫原の棚田は徳島市から南西へ車で約60分の山あいにあります。
徳島駅方面から国道55号を南下し、勝浦川橋を右折して県道16号に入り、道なりに進むルートがあります。
上勝町役場から樫原の棚田までは約5km、車で約25分です。
公共交通の利用を検討する場合は、利用できる路線や運行日、降車後の移動方法を確かめましょう。
バスでは、徳島駅前から徳島バスの横瀬西行きに乗り、横瀬西で上勝町営バスに乗り換えるルートが案内されています。
町営バスは上勝町内の運行路線上でフリー乗降ができますが、交差点付近や急カーブなどの危険な場所では停車できません。
徳島バスとの接続時刻は、町営バス時刻表を上勝町の公式サイトで確認してください。
タクシーを使う場合は、一般社団法人ひだまりが運営する「上勝有償ボランティアタクシー」も事前予約で利用できます。
地図上の距離だけで歩けると判断せず、道路の状況や通行できる範囲も確認してください。
車を利用する場合は駐車できる場所を事前に調べ、現地で空いて見える場所を自己判断で駐車に使わないようにします。
帰りの手段や休憩場所、トイレの場所も先に考え、移動を急がずに済む計画を立てましょう。
樫原の棚田周辺の見どころと宿泊施設
上樫原には、水苔(みずごけ)が群生する山犬嶽(やまいぬだけ)へのハイキングコースの入口があります。
山犬嶽は標高997mで、巨石群と水苔が見どころです。
山犬嶽の水苔は6月〜7月、紅葉は10月下旬〜11月上旬が目安とされています。
登山を考えている場合は、上勝町の公式サイトに掲載されている注意事項を事前に確認しましょう。
周辺には、農家民宿「山挨(やまあい)」と「山の楽校・自然の宿あさひ」があります。
宿泊や食事の受け入れ状況は変わることがあるため、利用する場合は予約の要否や営業状況を事前に確認してください。
まとめ
徳島県上勝町の樫原の棚田は、200年以上前の絵図とほとんど変わらない土地利用が受け継がれ、国の重要文化的景観にも選ばれた農村景観です。
訪ねる前に田の形や水田の変化を知っておくと、当日の風景を自分なりの視点で楽しめます。
見学できる範囲を守り、農作業や地域の暮らしに配慮することを大切に、服装と往復の移動を整えて出かけましょう。






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