脇町・うだつの町並みとは|藍の商いが育てた美馬市の景観
徳島県美馬市(みまし)の脇町(わきまち)には、白壁と瓦屋根の商家が連なる「うだつの町並み」が残っています。
屋根の高さまで視線を上げて歩くと、「うだつが上がらない」の語源にもなった防火壁と、藍商人たちの歴史を一緒にたどれます。
脇城の城下町から藍の集散地へ|吉野川の舟運で栄えた町
脇町は脇城の城下町として成立し、吉野川の舟運を生かした藍の集散地として発展しました。
吉野川の北岸で街道が交わる交通の要衝にあり、川を使った輸送にも恵まれた立地でした。
阿波に入った蜂須賀氏が藍づくりを奨励したこともあり、脇町の富商の多くは藍の商いに力を注ぎました。
明治22年(1889年)の町村制施行時には、徳島市、撫養(むや、現在の鳴門市)に次ぐ人口では県内3番目の町だったとされています。
藍の売買や運搬を担った商人たちの繁栄が、通りに並ぶ商家の構えに表れています。
建物を見る前に「藍を扱う商人の町だった」と知っておくと、立派な屋根や蔵にも意味を見つけやすくなります。
重要伝統的建造物群保存地区に残る85棟の伝統的建造物を歩く
一帯は1988年(昭和63年)12月16日に、全国で28番目となる国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
東西約430mの通りに、江戸時代中期から昭和初期にかけての伝統的建造物85棟が残り、同じ通りの中で時代による意匠の違いを見比べられます。
町並みで最も古いとされる建物は、宝永4年(1707年)に主屋が建てられた国見家です。
2019年(令和元年)5月には、うだつの町並みを含む阿波藍のストーリーが日本遺産「藍のふるさと 阿波」に認定されました。
通りに面した建物を順に眺めながら、壁の仕上げや窓、隣家との境に注目すると、散策がより具体的な建築観察になります。
江戸時代の家には虫籠窓のある中二階や吊り上げ式の蔀戸(しとみど)、明治時代の家には格子造りで二階の軒が高いものが見られます。
通りには古くから残るつるべ式の共同井戸や、明治初期の郵便ポストを模した「書状集箱」もあり、建物以外の見どころも点在しています。

うだつとは|防火壁と屋根飾りの見方
「うだつの町並み」という通称の由来になった「うだつ(卯建)」は、建物の両端に張り出した、瓦の小屋根を持つ袖壁です。
脇町のうだつは本瓦葺きで白い漆喰塗りのものが多く、二階の壁面から1mほど突き出しています。
白い漆喰で塗られた部分を見つけると、町並みの特徴をつかみやすくなります。
通りには約50のうだつが残るとされています。
「うだつが上がらない」の由来|防火の工夫から商家の誇りへ
うだつはもともと防火のために造られましたが、設置に費用がかかったことから、富や成功を示す装飾としての意味も強まりました。
脇町では、当時この地を治めた稲田氏が防火対策としてうだつを奨励したと伝えられています。
江戸時代には裕福な商家が競って立派なうだつを上げ、うだつは富の象徴とみなされるようになりました。
日本語の「うだつが上がらない」という表現も、裕福でなければうだつを上げられなかったことに由来するといわれています。
うだつの多い脇町では、この言葉はあまり聞かれないともいわれています。
火から家を守る役割と、商人が自らの成功を表す役割の両方を意識して眺めてみましょう。
鬼瓦や虫籠窓など町家の意匠を見比べる
屋根の端には、厄除けや魔除け、火除け、雷除けの願いを込めた鬼瓦が見られます。
「あ・うん」の対になった鬼瓦や笑っている鬼瓦など、表情の違いを探すのも楽しみの一つです。
鬼瓦の上に付く鳥衾(とりぶすま)は鬼瓦に鳥が止まって糞をかけないようにするためのもので、帆掛け舟や波など水にちなむ意匠も見られます。
二階の窓にある「虫籠窓(むしこまど)」は、形が虫を入れる籠に似ていることから名付けられた窓といわれています。
練り土に漆喰を塗って堅牢に造られ、盗難除けや明かり採り、風通しの役割を担い、時代とともに装飾的な意味も持つようになりました。
格子窓は、細かな格子が住まいの空間、粗い格子が店の空間に使われていたとされるので、格子の目の違いにも注目してみましょう。
通りで目にする建築用語と、観察する部分を整理すると次のようになります。
| 用語 | 形・役割 | 見るポイント |
|---|---|---|
| うだつ | 小屋根のある袖壁 | 隣家との境の張り出し |
| 鬼瓦 | 屋根端の飾り瓦 | 表情や細工の違い |
| 虫籠窓 | 明かり採りや風通しのための塗り込めの窓 | 二階の窓の形 |
| 漆喰 | 壁の仕上げ材 | 白壁と瓦の取り合わせ |
表通りから吉野川へ続いた町家の奥行きにも注目
脇町の伝統的な町家には、通りに面した間口に比べて、敷地が奥へ長く延びるものがあります。
国見家や田村家のように、敷地が表通りから吉野川の川岸まで達していた商家もあったとされています。
国見家では、川岸に設けた門から石段を通じて吉野川へ出られたといわれています。
外から見える正面だけで建物全体を想像せず、公開施設では中庭や蔵との位置関係にも目を向けてみてください。
通り側の華やかさと、商いを支える奥の空間をつなげて考えると、町家の造りが身近になります。

吉田家住宅と船着場公園で藍商人の歴史をたどる
藍商の屋敷の内部と、吉野川の水運を伝える船着場公園を合わせて見ると、藍の商いがこの町で営まれていたことを具体的に感じられます。
藍商佐直 吉田家住宅の見どころと入館料
「藍商佐直 吉田家住宅」は、佐直(さなお)の屋号で商売をした藍商人、吉田直兵衛の家です。
寛政4年(1792年)創業の藍商で、脇町でも一、二を争う豪商だったと伝わります。
うだつの町並み通りのほぼ中央にあり、約600坪の敷地に主屋・質蔵・中蔵・藍蔵・離れ家の5棟が中庭を囲むように建っています。
江戸時代中期から後期に建てられた建物は市指定文化財として一般公開されており、藍商の典型的な配置形式を今に伝えています。
母屋の奥に大きな蔵が続く構成からは、商いの場と藍を保管する空間が同じ敷地にあった様子を読み取れます。
見学では公開範囲に従い、客を迎える場所と商品を扱う場所がどう配置されているか、案内表示を見ながら確かめてみましょう。
開館時間は9時〜17時(最終入館16時30分)、休館日は年末年始(12月27日〜1月1日)です。
入館料は大人510円、小・中学生250円で、15名以上の団体には割引があります。
臨時休業やイベント期間中の特別料金が設けられる場合もあるため、訪問前に美馬観光ビューローや美馬市の案内を確認すると安心です。
毎年1月には、吉田家住宅で華道展「うだつをいける」が開かれています。
船着場公園で吉野川の水運を感じる
かつて町並みの南側には吉野川が流れ、吉田家住宅の裏手には川へつながる船着場があったといわれています。
現在、道の駅「藍ランドうだつ」に隣接する船着場公園は、昔の吉野川の船着場や藍蔵などを再現した公園として整備されています。
町並みには、吉野川を往来した帆掛け船の船板を使った「船板壁」も残り、川の水がここまで来ていた時代をしのばせます。
町並みを見たあとに立ち寄ると、商家と川の輸送が結びついていたことを想像しやすくなります。
藍蔵でお土産選びとカフェ休憩
吉田家住宅のすぐ南側には、藍を保管していた古い蔵を改装した店「藍蔵」があります。
1階がお土産コーナー、2階がカフェになっており、買い物や休憩を散策に組み合わせられます。
売店では地酒や激辛薬味「みまから」、藍染製品などの徳島土産を扱い、カフェでは阿波尾鶏のせいろ蒸しなどのランチやシフォンケーキを味わえます。
営業時間は9時〜17時30分で、年末年始は休業です。
歴史的な建物が今どのように使われているかにも注目すると、町並みへの理解が広がります。

うだつの町並み周辺の見どころ|オデオン座と伝統工芸の体験
町並みの散策に時間を足せるなら、近くの劇場や体験施設にも立ち寄ると、脇町の文化をさらに深く知ることができます。
脇町劇場オデオン座で昭和初期の芝居小屋を見学する
脇町劇場(オデオン座)は、1934年(昭和9年)に芝居小屋として建てられた劇場です。
歌舞伎や浪曲が上演され、戦後は映画館として地域の憩いの場になりました。
1995年(平成7年)に閉館しましたが、山田洋次監督の映画「虹をつかむ男」の舞台となったことで価値が見直され、1999年(平成11年)に創建時の姿へ修復されました。
舞台には直径約6mの回り舞台があり、昭和初期の芝居小屋の造りを間近に見られます。
開館時間は9時〜17時(最終入館16時30分)で、入館料は大人200円、小・中学生100円です。
うだつの町並みの東側にあるため、町並みの散策と合わせて訪ねやすい施設です。
藍染めや美馬和傘の体験施設に立ち寄る
道の駅「藍ランドうだつ」に隣接する美馬市観光交流センターでは、天然藍の染料を使ったハンカチ染めなどの藍染め体験ができます。
体験時間は10時〜16時(最終受付15時)で、予約が優先され、1組最大8名までです。
藍の状態によって休む日もあるため、体験したい場合は事前に問い合わせておきましょう。
町並みの中ほどにある美馬市伝統工芸体験館「美来工房」は、昭和36年(1961年)に法務局として建てられ、昭和63年(1988年)に明治時代の税務署をモチーフに改築された建物を活用した施設です。
美馬和傘の製作現場を無料で見学でき、和傘の技術を生かしたミニ和傘や和傘ランプシェードの制作体験も用意されています。
うだつの町並みの写真を楽しむ歩き方
写真に残すなら、通り全体のつながりと建物の細部を分けて眺めると、撮りたいものを選びやすくなります。
家並みの連続を見てから細部へ
まずは歩行や車の通行を妨げない位置で、白壁と屋根が連なる様子を見渡しましょう。
そのあと気になったうだつや鬼瓦に視線を絞ると、全景では見過ごした形の違いに気づけます。
屋根を見るときは歩きながら見上げ続けず、周囲を確かめてから立ち止まると安全です。
白壁と屋根を同じ画面に収める
白壁の明るさと瓦の重なりが伝わるよう、画面の中で壁と屋根の比率を変えてみましょう。
うだつを撮るときは建物全体も一緒に残すと、どの位置に付いているかが分かります。
細部を撮るために住宅の敷地へ近づきすぎず、道路から見える範囲で構図を選んでください。
灯籠がともる夜の町並みを撮る
夜の町並みには灯籠がともされ、昼間とは違う温かく幻想的な雰囲気に包まれます。
白壁が柔らかな明かりに照らされる時間帯は、昼とは異なる表情の写真を残せます。
ただし通りには今も人が暮らしているため、夜の撮影は静かに、短時間で済ませましょう。

脇町観光で守りたい住宅地と撮影のマナー
うだつの町並みには一般住宅もあるため、公開されている施設と私有地を区別することが大切です。
玄関や敷地を見学場所と思わない
通りに並ぶ建物の多くは今も人が暮らす住まいなので、公開施設以外の建物や敷地には立ち入らないようにしましょう。
玄関が開いていても公開施設とは限らないので、見学できる旨の表示や案内を確認しましょう。
住んでいる人の出入りを優先し、住宅の中をのぞき込むような行動も避けてください。
撮影前に人と通行への配慮を
施設内の撮影は、現地の表示や係員の案内で可否を確認しましょう。
人を主な被写体にするときは、撮ってよいか声をかけると安心です。
散策や撮影で迷いやすい場面ごとの配慮をまとめました。
| 場面 | 心がけること | 控えること |
|---|---|---|
| 住宅の前 | 出入りできる幅を空ける | 玄関前に長く居続ける |
| 人物の撮影 | 本人に声をかける | 無断で大きく写す |
| 施設内の撮影 | 表示や係員に確認 | 撮影可と決めつける |
| 車が通るとき | 周囲を見て道を譲る | 撮影に集中して塞ぐ |
路上喫煙の禁止と車・深夜の散策に注意
「うだつの町並み」区域内での路上喫煙は禁止されています。
喫煙する場合は、マップや現地で喫煙所として示された灰皿の設置場所だけを利用してください。
通りには住民の車も行き来するため、車で走りながら見物するのは避け、駐車場に車を停めてから歩いて楽しみましょう。
住民の休息を妨げないよう、深夜の訪問や大きな声での会話は控えてください。
うだつの町並みへのアクセスと訪問前の準備
車なしの旅行では、列車だけでなく駅から町並みへの移動と帰路も合わせて計画しておくと動きやすくなります。
JR穴吹駅からタクシーで約10分
鉄道で訪れる場合は、JR徳島線の穴吹(あなぶき)駅がアクセスの起点になります。
徳島駅から穴吹駅までは、特急「剣山」で約40分です。
穴吹駅から町並みまではタクシーで約10分が目安です。
列車の時刻はJR四国の案内で確認し、帰りのタクシーの手配方法や乗車場所も事前に相談しておきましょう。
地名を伝える際は「脇町・うだつの町並み」と日本語で表示したメモがあると便利です。
車なら脇町ICから約10分|道の駅「藍ランドうだつ」の駐車場を利用
車の場合は、徳島自動車道の脇町インターチェンジから約10分です。
徳島市内からは徳島自動車道経由で約40分、一般道で約1時間、高松市内からは一般道で約1時間20分が目安です。
町並みの南側にある道の駅「藍ランドうだつ」には、普通車39台・大型車5台分の駐車場があり、24時間利用できます。
道の駅から吉田家住宅までは徒歩約1分で、トイレもあるため散策の拠点として便利です。
施設の入館条件とボランティアガイドを確認する
吉田家住宅などの施設に入る予定なら、町並みを歩く計画とは別に、開館時間・休館日・入館料を確認してください。
歴史を詳しく知りたい場合は、うだつや町並みの歴史、文化を案内するボランティアガイドを利用する方法があります。
ガイドは英語や簡単な手話での案内にも対応しています。
賛助金は1〜4名なら1人500円、団体はバス1台・ガイド1名につき2,000円が目安とされています。
申し込み方法や参加条件は、美馬観光ビューロー(TEL:0883-53-8599)へ事前に相談しましょう。
美馬観光ビューローの公式サイトには英語・簡体字・繁体字のページもあり、出発前の情報収集に役立ちます。
出発前には、次の準備もしておくと落ち着いて散策できます。
- 歩きやすい靴を選び、天候に合わせた雨具や暑さ対策を用意する
- 荷物は持ち歩きやすい量にまとめる
- 一緒に歩く人と、はぐれた場合の待ち合わせ場所を決める
まとめ
脇町・うだつの町並みは、うだつの防火の工夫や屋根の意匠から、藍商人の歴史を読み取れる散策先です。
吉田家住宅と船着場公園を組み合わせれば、建物の美しさに加え、暮らしや商いと川との関わりにも目を向けられます。
駅からの往復と見学施設の案内を確認し、今も暮らしが続く町への配慮を持って歩きましょう。






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